先日の第84回大会で発表してきました.タイトルは,「長野県下條村の特異性:長野県内10市町村調査結果から」でした.昨年からいただいている基盤研究(B)「地域間格差と個人間格差の調査研究:ソーシャルキャピタル論的アプローチ」(研究代表者:辻)の予備調査として行われた,昨年の長野県10市町村調査をもとに,下條村の特異性について計量分析を試みたものでした.
なぜ下條村か,ですが,現村長が子育て支援政策を重点的に行い,それが好転して,合計特殊出生率が2を越える自治体となり,全国の300以上の町村などから視察が来るようになった,非常に特異な自治体であるからです.
具体的には,子どもの医療費無償化を早期に実現したり,若者定住促進住宅を建築し安価で提供するなど政策を行ってきました.これらを視察しに来た自治体では,このような政策をまねて実行に移すところも現れています.しかしながら,そういった自治体で,出生率が大いに上昇したというわけではないようです.それは,なぜだろうか,というのが出発点です.
サンプリングなどについての詳細は,パスします(詳細は要旨集を参照).
やった分析といえば,とにかく,市町村を水準として,1要因分散分析をやって,全体が有意なものについて,多重比較をやり,下條村が「イケてる」ところと「イケてないところ」を抽出し,そこから妥当と思われるストーリーを考えました.
結局,下條村は,図書館と公共ホールを除くと特に利便性が高いわけではありませんが,村役場は,住民の意見を取り入れたり要望を聞いたりする姿勢が評価されています.また,市民へのサービスは,子育て支援だけでなく,他の側面での評価も高いです.住民は,地域のイベントには参加する方であり,結束型の閉鎖的な社会関係資本が充実しています.特に住民については,若者定住促進住宅に入居するための要件として,男性が消防団に加入することなど,家族間の交際も促進することで,子どもの世話をし合うような住環境を作り出すことに成功していることがポイントであると思われます.他にもさまざまな交流の仕掛け作りをしており,それが全体として子育てしやすい環境を作り出しているのだということです.
つまり,ただ単に医療費を無償化したり,若者定住促進住宅を作ったりという政策を打つだけでなく,住民間のネットワークづくりに村が関与することによって,高い出生率を生み出しているのではないかというわけです.
発表では言わなかったことですが,私は,青木村にも大きな可能性を感じています.青木村も教育について重点的な政策を行っており(詳細は,信州大学人文学部の社会・情報学講座で2008年度と2009年度に行った調査の報告書を参照),住民も教育については評価が高いです.また,ともに地域の中心都市のベッドタウンという位置や,若者定住促進住宅の建設にも類似性が見られます.あとは,住民間のネットワークづくりをどうするかという点にあるのではないかと思われます.
ともあれ,全体として,箱物や制度を整えるだけでなく,そこに住む人々のネットワークを作っていくことにあるのだろうということです.
それから,地域社会学について.これまで地域社会学では,あまり大々的な地域間比較をやってこなかったのではないでしょうか.1つの自治体についての研究は多々ありますが,比較を通してこそ見えてくる自治体の特徴というものもあります.今回の報告はそういったやり方が特に有効であることを示せたのではないかと考えています.
