世の中には偶然の一致ということがある.
クローン牛は,遺伝子が操作されて一致するのだが,自然を人工的に操作できることに対して驚きを感じるかもしれないが,そのように操作しているのだからそうなるという意味では偶然でも何でもなく当たり前のことかもしれない.
しかし,全く何の操作もしていないのに,自然が全く非人工的に生じさせる一致というのは,自然そのものが生み出す偶然として驚きを感じさせる.
私は先日夜遅く家に帰り,ふだんのように駐輪場に自転車を止めた.ふと見ると,それまで見たことのないおそらくは新しい自転車が止まっていた.なぜ数ある自転車の中でそんなことに気づいたかというと,その自転車が私の自転車と全く同じ種類だったからである.それまでうちの駐輪場には,同じ種類の自転車はなかったから気づいたのである.
「何だ,そんなことはよくあることだ.同じ近所の店で自転車を買ったらそうなるっていうことだろう.」そんな声が聞こえてきそうである.しかし,話はまだ続きがあるのである.
私は何となくイヤな予感がして,自分の自転車の鍵を外し,その自転車に鍵をかけてみたのである.すると......,何とその自転車の鍵が開いたのである.「んな,アホな!!」
私はこれはその駐輪場に止めておくと,朝になってその自転車の持ち主が私の自転車に乗っていってしまうかもしれないと思い,とりあえず,自分の自転車はうちに入れておくことにした.
翌朝,私は早めに家を出た.駐輪場にはその自転車がまだ止まっていた.私は,盗難防止用のシールの番号を2つ控えてから自転車の販売店に出かけた.
私は昨夜の驚きを刻銘に伝え,そして,この鍵を付け替えてくれないかと頼んだ.そこの店員のお兄さんは,まだ自転車の販売からそれほど経っていないことから,在庫の鍵の番号を確認し違う番号であることを確かめて,付け替えてくれた.たいへん好感の持てる対応であった.そしてさらに私は尋ねてみたのである.
「あのー,こんなことは,よくあることなんでしょうか?」「いやー,珍しいことですね.」「そうですよね.昨日は本当にびっくりしました.同じ宿舎に同じ鍵番号の自転車を持つ人がいたなんてね.」「私も実はこんなことは初めてです.」
はっきり言おう.その鍵の番号は3桁だった.したがって,2台のメーカーの同じ自転車が同じ番号の鍵である確率は,1-(1-.001)*(1-.001)=.001999である.およそ1千分の2.この程度だと,自転車泥棒を試みる人がいたとして,同じメーカーの自転車を500台当たらないといけないことになり,あまりにも非効率である.
しかしながら,私はそこに止めてあった複数台の自転車の鍵の番号の並びの特性から,実は番号は3桁だが,実質的には2桁と同じ程度ではないかということに気がついた.そうだとすると,2台が一致する確率は,1-(1-.01)*(1-.01)=.0199となり,100台に2台となり,これは自転車泥棒としては,結構効率がよいのではないかと思う.また,隣あった自転車が偶然にということも結構ありうることだとわかったのである.
私はとっさに上の計算(概算)をし,ワイアーの鍵を別に買うことにした.大学では同じメーカーの自転車を見かけるし,また,結構自転車が盗まれたという話も聞く.私自身,傘と自転車は天下の回りものではないかと思っている.今回は,このような驚きがあって未然に自転車の「一般交換」や盗難を防ぐことができた.
ともあれ,自転車の鍵の番号が3桁以下の人は,ワイアーの鍵などを別に買った方がよい.せいぜい1千円程度(安いものだと300円台くらい)である.1千円で盗難にあったときの煩わしさを防げると思えば安いものである.
しかし,ちょっと待った.問題をすり替えてはならない.問題は,この世にどれだけあるかもわからない自転車の中で(それがあまり現実的な意味がないとすれば,松本市にある自転車の中ででもかまわないが),何気なく駐輪した2台の自転車が同じ種類の自転車であり,かつ,同じ番号を持つ確率ではなかったか.後者については手がかりがつかめたが,前者の方は,自転車の台数の推測の仕方,同じ種類の自転車の存在する台数の推測の仕方,などがわからないと解けないだろう.まだ,最終的な答えは見えてこない.