留学を経験した私であるが,常々,専門の論文の英語よりも,日常の英語の方がずっと難しいと思っていた.問題は,英語にもあるニュアンスである.ここで取り上げた2冊は,いずれもそういった点について,具体的な例を挙げてニュアンスを解説してくれる.受験英語では到底学べない内容である.こういった本がもっと早くからあれば,留学中のさまざまな行き違いも避けられたことがあったかもしれない.実際,文法が間違ってはいないはずなのに,けげんな顔をされたりすることが,留学当初はしょっちゅうあった.本書を読むと,「ああ,そういえば,こういう言い方をしたときに,変な顔をされたなぁ」と思うことが多かった.その意味で,これらの本の内容は,私が数年間留学をしていて現場で学んできたものとほぼ同じで,かなりの部分は首肯できるものであった.海外に出て行く予定のある人などは,持っておいて損はない.全体的には,よく書けているという印象であった.
いくつか注文をつけるとすれば,同じフレーズでもイントネーションに注意せよといったことが書いてあるところが結構あるのだが,実はそれをイメージできるかどうかは,結構難しいかもしれない.私も留学していたから,ああじゃなくてこうなんだよな,と想像できるのだが,ただ「注意せよ」だけでは,注意のしようがないのではないだろうか.願わくは,CD-ROM付きの方がよかったと思う.ただ,新書版という制約上,これは無理なのかもしれない.
それから,シチュエーションは一応説明されてはいるし,全体としては書き言葉より話し言葉について書かれているのだが,書き言葉として利用可能かどうかといった指摘があってもよかったかもしれない.誤ってそのとおり書き言葉で書いてしまうと,意味不明とかいうものもある.
またシチュエーションについて言えば,たとえば愛の告白のフレーズなんてのもあったが,このあたりになると,日本人だってそうだが,かなり好みがあるものである.著者2人の年代も気になるところである.私の感じたところでは,推奨されているフレーズは,少なくともティーンエイジャー向きではなさそうだし,やや無難すぎるかな,やや内向的すぎるかなといった感じがした.
たぶん,こういった本はどれもそうだと思うが,実際には,紹介されているフレーズを参考にしながら,実際には自分で実際の状況に合わせて変化をつけていかなければならないのだと思う.スタンダードはあくまでもスタンダードなのである.(もっとも,スタンダードとは何かといった議論もありえるが,私は英語の専門家ではないので,そのあたりはパスしたい.しかし,留学経験があるので,ある程度のスタンダード「らしさ」はわかっているつもりである.)
自分が好ましいと思う自己像のとおりに英語でも自己表現したいとすれば,ものの言い方とそのニュアンスについて無関心ではいられないだろう.これらの本で予習した上で,見せたい自分のとおりに表現するにはスタンダードからどのように味付けするのがよいかを考えてみるのも面白いと思う.ただ,そういったことは,実際に現地で手探りをしてみて,相手からの反応を見ないとわからないものだとは思う.
いずれにしても,こういったテーマは,意外にも難しくも興味深い問題の一端を表しているように思われた.
